恋人の聖地 宇多津町 令和相聞歌

過去の結果

第1回(令和元年度)結果発表

≪第1回(令和元年度)テーマ≫

※各受賞作品の順番は投稿ナンバー順となります。

最優秀賞

君の名を 試し書きした 文具店

ピコタン

選評

・最優秀に相応しい作品。「試し書き」が思いを寄せる「君」の名である初々しさ。「した」という表現に哀愁がこもる。「文具店」が恋の思い出の場所となる。(田山)

・文具店での試し書きは、いつの間にか君の名前ばかりを書いているのですね。情景の見えるような作品です。(田中)

・平成から令和へ。時代と共に、私達が日常使うツールも大きく変化してきました。デジタル全盛の時代にあって、嗜好品的な魅力も備えつつある「文具」。いわば気分がアガるものを探す場所が「文具店」なのです。気に入るペンを見つけ、サンプル紙に試し書きをする文字は恋する「君の名」。一般web投票においても人気の高かった、年代を問わず強い共感性をもった作品です。(家藤)

・文具店で万年筆かボールペンで試し書きをする。迷わずに好きな人の名を書いた。「君の名を」を上5にして思いの深さがある。下句の文具店でその光景がみえ効を奏している。(吉岡)

・若い学生らしい一句。文具店という場所、試し書きしたという情況を鮮明に描いた秀逸な作品。(水野)

優秀賞

春暁の魚のやふに抱き合ひぬ

平本魚水

選評

・孟浩然の詩にも枕草子第一段にも強調される「春暁」が「魚」をみちびくという発想が秀逸。「春暁」という語が下の句「抱き合ひぬ」を美しいイメージに昇華させる。(田山)

・春暁と「魚のやふに抱き合ひぬ」のとりあわせが絶妙で、作品世界を大きくしています。(田中)

・「春暁の魚」が詩の言葉として美しい。春の朝の光の中で、ゆるやかに身をくねらせる魚。身をすりあわせる鱗の輝きの美しいことよ、と映像を頭に浮かべた瞬間、それが比喩へ転換されていくわけです。艶めかしい人の肌もまた春暁に美しい。「やふ」の仮名遣い間違いがなければ完璧でした。(家藤)

・季語の春暁は春の暁に海遊している魚を強調し「魚のやうに」を擬人化しての表現が下句の動詞にながれて17文字にきれいに仕上がっている。瀬戸内海では鰆が海の春を告げる。(吉岡)

・「春暁の魚」ととらえた感覚がとても良い。私好みの一句でした。(水野)

ひたすらに人思ふ日や菊の酒

水夢

選評

・何気ない日常につよく起こる人への思い。「菊」をうかべた「酒」が作者の人生を象徴しているよう。(田山)

・ひたすらに「人」を思うのはせつないですね。菊の酒から、上田秋成の「菊花の約」が思い出されました。(田中)

・なにかに耽るという行為は、心理的にも時間的にも自分の多くを傾けるということ。「ひたすらに」「思ふ」相手はいったいどんな「人」なのか。今慕う相手か、あるいはかつて身を焦がした恋か。「菊の酒」の明るい黄色と匂やかな酒気も滋味深い取り合わせです。(家藤)

・盃に菊の花を浮かべ日本酒を一杯頂く。心を寄せて何年だろうか、元気だろうかひたすらに思う気持ちいとおしくみえる、「菊の酒」の季語が調和している。(吉岡)

・しみじみとした情感が伝わってきます。作者は年配の方でしょうか。「人」は亡くなった方でしょうか。季語「菊の酒」がよく効いた一句です。(水野)

ポラリスを探すふりしてさりげなく君の横顔ずっと見ている

みやこわすれ

選評

・夜空を北に向いて仰ぐ二人。動かない「ポラリス」を探すふりをして横顔をずっとみつめる作者の姿勢が相手に寄せる強い思いを語る。(田山)

・横顔をずっと見ていたいけれど、ちょっと照れくさい。そこで北極星を探すふりをしている、初々しい歌。(田中)

・「ポラリス」は北極星のこと。「横顔」を題材にした作品は多くありましたが、他の星ではなくポラリスである意味を深読みできるところに本作の魅力があります。作者にとっての「君」は北極星のように輝き、導いてくれる存在でもあるのでしょう。(家藤)

・ポラリスはこぐま座で最も明るい北極星。二人で夜空を見上げ、星よりも君を見ていたい!その気持ちを「探すふりして」で信愛の深さ、奥ゆかしさ読み取れる。(吉岡)

・「ポラリスを探すふりして」が独特です。情況が具体的に詠みこめている。(水野)

特別賞

またひとつ 恋が生まれて 飛んでゆく 手のひらサイズの 宇宙の中で

朝山ひでこ

選評

・恋が「生まれて飛んでいく」躍動感。「手のひらサイズの宇宙」という表現に作者の大きなスケール感がある。「またひとつ」と達観する作者の視点にとうとさがある。(田山)

・スマホを「手のひらサイズの宇宙の中」と見立てたところが、この歌のポイント。メールで恋の言葉を交わしているのですね。(田中)

・後半の「手のひらサイズの宇宙の中で」をどう読み解くか。仏の掌の逸話もありますが、そんな巨大な神や仏の視点からみれば、恋が一つうまれ、実ったり飛んでいったりすることなど些細なことなのかもしれません。「またひとつ」が達観した味わい。(家藤)

・「またひとつ」の意味、失恋の後かまたは婚活の結果が良かったのかと想像する。恋が生まれて和む心、若い世代への応援メッセージにとれて平和感があふれてくる。(吉岡)

・たんぽぽの綿毛を飛ばしてるような、ほんわかした歌です。「手のひらサイズの宇宙の中で」は詩的です。(水野)

目を閉じて君のくちづけ待つまでの3秒間の皆既日食

安楽カフカ

選評

・人生で一度見ることができるかどうかという「皆既日食」の希有な体験。3秒間にこめられた恋の成就への期待。皆既日食の終わりは「ダイヤモンドリング」。(田山)

・口づけを待つまでの3秒間を「皆既日食」と見立てたところに、工夫の跡がみられます。(田中)

・「皆既日食」は本当の皆既日食ではなく、目を閉じたからなのでしょうが、言葉のイメージがもたらす効果は大きいです。ただドキドキするだけではなく、少しの恐れや、これから何が起こるかわからない未知を思わせました。(家藤)

・愛情表現のくちづけを待つまでの様子、3秒間と皆既日食を登場させ、時間の流れが物語の世界観がありリアルである。(吉岡)

・「3秒間の皆既日食」が目を閉じて君のくちづけを待つ時間だったとは。この発見・着眼点に乾杯!!です。(水野)

クラス替え恋がスタート位置につく

選評

・クラス替えで憧れの人に出会えたのだろうか。これから恋のレースのスタート位置につくという作者のさわやかさを感じる。(田山)

・「スタート位置につく」のはずむような表現に、作者の心が込められています。(田中)

・「クラス替え」を素材にした作品は山ほどありましたが、この作品が類想から一歩抜きん出たのはなんといっても後半「スタート位置につく」の勢い!自由時間になった瞬間から話しかけたりしてそうな前のめり具合が若さです。恋よ、実れ。(家藤)

・小学校、中学校のクラス替えは、多感な時だけにワクワク感と期待感がある。思う好きな人と同じクラスになれますように!「位置に立つ」で喜びと緊張感が伝わり意気込みさえも感じる。(吉岡)

・若い人の句らしく、躍動感あふれる言葉が畳み掛けられています。読むと元気が漲ってきます。(水野)

コンビニの肉まん分ける塾帰り ふたりはいいね揺れるブランコ

大平 小鈴

選評

・「コ」ではじめ「コ」で締める作者のたくみな用字。「塾帰り」「肉まん」「ブランコ」という語句にこめられた若さがいい。(田山)

・「ふたりはいいね揺れるブランコ」の下の句から、ぐっとイメージが広がった若々しい作品。お二人の会話が聞こえてきそうな歌。(田中)

・「コンビニの肉まん」の季節感、「塾帰り」の年齢や関係性、「ふたりはいいね」の口語による会話。さらっと描かれていますが情報量のバランスが巧みな作品です。(家藤)

・中学生の日常の様子で見かけたこともある。塾帰りにお腹がすいたと肉まんを一つ買って分け合う、仲いいからブランコに乗ってお喋りも。十代の雰囲気が彷彿として臨場感ある作品。(吉岡)

・「コンビニ」「肉まん」「塾帰り」「ブランコ」、ラブラブ感満載の歌です。現代の世情もよく表現されています。(水野)

下の名を呟いてみる聖五月

小笹いのり

選評

・「五月」に「聖」をつけ恋のイメージを「聖母」にまで広げてみた。「下の名」で相手を呼べる親愛な仲になれる日が近いのかも。(田山)

・夏の季語「聖五月」が印象的。「呟く」から、恋の始まりを感じます。(田中)

・カトリックでは五月は聖母マリアを讃える月。「聖五月」の清らかさが「呟いて」いる人物の清廉なイメージを導きます。普段は言えないけど「呟いてみる」、小さな勇気と感情の発露。(家藤)

・好きな人の名前を声に出してみる。愛情表現で自分自身に呼びかけてみる。中七の「呟いてみる」として季語の「聖五月」とうまくあっている。「下の名」が惜しい。(吉岡)

・相手に言うのではなく、ひとりで下の名を呟いている片恋は、「聖五月」という季語にぴったりです。私の好きな句。(水野)

失恋や空のソーダの瓶青し

こっぺぱん

選評

・「失恋」の現実を「空」「ソーダの瓶」「青し」と譬える素晴らしさ。メランコリックに流されることなく自分の価値観を込めた句はとうとい。(田山)

・失恋を爽やかに詠っています。明るく詠うことで「失恋」がクローズアップされます。(田中)

・「失恋」だって立派な「恋」の姿です。手元にあるのは「空のソーダの瓶」。ソーダ瓶の空っぽな青が、ぽっかりとした作者自身の現在と重なります。弾ける泡のような恋の残滓を胸に残しながら。(家藤)

・ソーダ水は、夏の季語。おそらく失恋してソーダ水を思いっきり飲み干し空になった瓶をしみじみ見てる。自分の気持ちも空にしてを瓶に託しているのであろう、自然な形で下句の青がきいている。(吉岡)

・失恋を「空のソーダの瓶青し」と表現する感覚が、冴えている一句。この人独特の視点です。(水野)

恋しくてただ恋しくて朧月

城内幸江

選評

・「恋しくて」をくりかえすところにこめられたせつなさ。「朧月」を見上げる作者の心のうつくしさがある。(田山)

・月を見て恋心を募らせるのは、平安の昔から。「恋しくて」のリフレインが効いています。(田中)

・上五中七で同じ言葉を重ねるところに思いの深さが読み取れます。中七「恋しくて」と下五へつなげたことで、「朧月」の滲みが作者の心理によりもたらされたかのような印象も受けます。(家藤)

・春の夜空に霞む月、ぼんやり光る月もいいなと見上げてるうちに恋しさがつのってきたのでしょう。「ただ」を入れてさらに恋する人への思いの深さがある。恋に月はよくあるが、朧月の季語とただ恋しくての惜辞がそれを言い得てる。(吉岡)

・言葉のリフレインでリズム感が出て、「朧月」の季語がよく表現されています。(水野)

ニュートンの林檎よ恋は落ちるもの

奈良香里

選評

・万有引力で林檎は「落ち」、恋の相手も必ず自分に「落ちる」という作者の達観。恋という「林檎」の味わいや如何に。(田山)

・「落ちる」を導き出すために、ニュートン氏にお出ましいただいた知的な作品。そう、恋は落ちるものですね。(田中)

・重力という科学的発見、恋という心理の働き。本来全く関係ないふたつの事柄を破調のリズムで並べて、詩を生んでいます。後者を強く断定することで『「恋は落ちるもの」とは重力の存在と同じくらい当然の真理なのだ』と言い放っているわけです。力強くて愉快痛快。(家藤)

・ニュートンの力学・万有引力の法則で林檎の落ちる確実さと人の恋の取り合わせ表現が新鮮に感じる。落ちるものと決めつけて佳句に。(吉岡)

・「恋は落ちるもの」と断定したところを「ニュートンの林檎」の発見につなげたところが絶妙です。(水野)

愛しい君を首長くして待ち続けて 僕はやがて孤独なキリンになるだろう

未瑛

選評

・愛しい君との距離がまだ遠いのか。首長くして待ち続け、「孤独なキリン」になるという発想が独特。「やがて」という副詞をうまく使った。「だろう」という表現に希望も感じる。(田山)

・「孤独なキリン」の比喩が素敵で、説得力があります。「首長くして待つ」がキリンと結びついたのですね。(田中)

・令和相聞歌最大の特徴は、最大80文字という応募規定。令和相聞歌ならではの長文による優秀作も見てみたい、という思いで毎年審査にあたっております。叶わぬ思いの丈を「キリン」という実在を通して映像化しているのが興味深い作品でした。「僕」はキリンのように悲しげな目をしているに違いない。(家藤)

・愛しい人から良い返事をもらうのに、どれほどの思いかをキリンの首のようになるまでも待ち続けると。散文的な愛情表現でまとまっている。(吉岡)

・これも片恋。「首を長くして」と「キリン」は付きすぎですが、「孤独な」がいいです。孤独の好きな詩人でしょうか。(水野)

ホスト辞めようかな冬の林檎剥き

隣安

選評

・「かな」にという表現にこめられたやさしさ。ホストが「剥き」つつある「冬の林檎」が恋の時間の長さを伝える。(田山)

・文学空間のある作品。林檎を剥いた時の清新なイメージが、突として「ホスト辞めようかな」につながったのでしょうか。(田中)

・口語の呟きから始まる、破調のリズムの一句。「ホスト」という夜の世界から抜け、新たな人生を選ぼうとする男性。その選択は恋人との明るい暮しを築くためでしょうか。「冬の林檎」の鮮やかな赤、皮を剥くかすかな音のある日常。そんな日常にこぼれる言葉は、少し背中を押して欲しそうに聞く者の耳に届きます。(家藤)

・ホストの仕事を辞めるかどうかをリンゴを剥きながら向き合っている。剥き終わるまで結論を。気持ちの整理と林檎の皮むきの取り合わせよく冬の季語を入れて心模様、17音に実感こもる作品。(吉岡)

・冬の冷たい林檎の皮を剥きながら、自分の生き方を考えている男性の姿が浮かびます。「ホスト」が衝撃的!!(水野)

四国新聞社賞

令和発 恋の列車に 乗り込んで 行き先不明 夕焼け染まる

ゆうゆう

始まる前の思い出は どうしてか色が違う 乳白色の夜と 恐る恐る触れた手 あの頃想像もしなかった 透き通った今日は 隣のあなたを見つめる

えりざべす

毛糸玉十五個ほどの恋を編む

ライラック

天の川かかってしまう糸でんわ

うさの

檸檬ひとつ転がり恋は始まりぬ

月の道馨子

四国医療専門学校賞

口喧嘩しつつ肩もみ共白髪

小見伸雄

退院の妻はなんだか軽そうで飛ばされぬよう袖掴まねば

坂西涼太

隣なら おはようだけは 言えるのに 運命分ける 今日の席替え

さやか

慣れちゃだめあくび二つに笑う朝

櫻井 央

はやいかな? 既読をつける タイミング

おまめさん

選考委員について

令和相聞歌の選考委員の先生を紹介させていただきます。(50音順 敬称略)

  • 家藤 正人(俳人)
  • 田中 美智子(歌人)
  • 田山 泰三(和歌研究者)
  • 水野 ひかる(詩人)
  • 吉岡 御井子(俳人)
pagetop