恋人の聖地 宇多津町 令和相聞歌

過去の結果

第12回(平成30年度)結果発表

≪第12回(平成30年度)テーマ≫

※各受賞作品の順番は投稿ナンバー順となります。

最優秀賞

しゅわしゅわと 弾けるラムネ 盗み見る ビー玉ごしの 澄んだ横顔

そらたま

選評

・ラムネというレトロな素材を詠って、若々しい新鮮な作品。「しゅわしゅわとはじけるラムネ」と二句切れでラムネを提示し、ビー玉ごしに恋人の横顔を見ているという巧みな作品。しゅわしゅわの擬音に恋の予感が。(田中)

・ラムネの瓶を傾けて飲んでいる恋人。緑色のビー玉ごしに恋人の横顔を盗み見ている作者。音と色彩、聴覚と視覚が存分に表現されていて新鮮である。そして、「ラムネ」という昭和のレトロなものを持ってくるあたりに、作者の技を感じる。(水野)

・「しゅわしゅわ」と泡の弾ける音から展開されていく描写が、今まさにこの場面を体験しているような鮮度を与えてくれます。「ビー玉」を通して見る湾曲した横顔。直視するのではなく、そんな風にしか見られない自分。もどかしい青春です。多くの共感を集めた、web投票においても審査員団の投票においても人気の高かった作品です。(家藤)

優秀賞

二億年君待つ石よ秋蛍

クラウド坂の上

選評

・2億年待つという比喩に、想いの深さを感じます。「秋螢」により作品世界が大きくなりました。(田中)

・季語である「秋蛍は」残暑の厳しい頃の蛍。季節外れの感があり、はかなく哀れな様子です。それにひきかえ「二億年君待つ君」は永久。永遠といってもよい存在感があり、意志も強固である。その落差こそが恋を呼ぶ。一瞬と永遠が同質のものとなる哲学的な作者の句である。(水野)

・愛する人に贈る宝石。秋の蛍が舞う夜のプロポーズ。今贈らんとするこの石は二億年の間貴方を待っていたのです…なんて告白しているのでしょうか。なんてロマンチックな秋の夜でしょう!静かな「石」の輝きと、柔らかな「蛍」の輝き。両者の同居も巧みな一句です。(家藤)

鴇羽色 紅梅色に 猩々緋 頬が彩る 近づくほどに

Diapositive

選評

・待ち合わせの場所でしょうか。恋人が近づくにつれ頬が紅潮してくる様子を、日本古来のゆかしい色の呼び名で表現。淡紅の鴇(とき)色から黒味をおびた鮮やかな深紅色になった頬から「貴方に全開」を感じます。(田中)

・鴇羽色、紅梅色、猩々緋と少しずつ頬の色が変わっていくことで、恋する気持ちの変化が、うまく表現されている。日本古来の色に対する作者の知識が遺憾なく発揮されていて快い。(水野)

・前半三節に登場するのは和の色の名前。全て赤系統を表します。好きな人との近距離遭遇。近づけば近づくほどに深まっていく頬の赤。「猩々緋」までいけばもはや触れんとする程でしょうか。和の名で綴られる色の深まりが人柄を想像させて奥深い作品でした。(家藤)

片恋や金魚を放つ明日は雨

天野姫城

選評

・「片恋や」をうけた「放つ」に作者の願望のようなものを感じます。調べの整った作品。(田中)

・「片恋」という自分の中に閉じこもりそうな精神状態にありながら、「金魚を放つ」という行為は、何かを決心したように感じさせる。また、「明日は雨」という状況を語ることで、読者の想像力をますます膨らませるような、巧みな展開を見せている(水野)

・片恋の切なさは時に流れる水を連想させます。冷たく、留まらず、思い通りにならず。飼っていた美しい「金魚」を放つ作者の心情は如何ばかりでしょう。金魚鉢の水と共にするりと失われてしまう金魚の色彩。無色の悲しみの明日へと向かう繊細な女性の人生の一場面。(家藤)

特別賞

君を連れ いつか行きたい 歌碑めぐり 宇多津の海に 響く恋歌

酒井具視

選評

・恋人の聖地・宇多津には、平成相聞歌入賞者の歌碑が現在55基あります。ぜひお二人でいらしてください。(田中)

・恋の歌の刻まれている歌碑のある宇多津へ、君を連れて行きたいと思う作者。「いつか」という未来を見つめながらの願望である。ひとつひとつの言葉の選択が過不足なくしっくりと納まっていて、見事な宇多津讃歌になっている。(水野)

・実際に歩いたらこんな感じかしら、と想像しての一作でしょうか。海風に乗っていく楽しげな声を思わせて嬉しい。(家藤)

鳥になり 飛行機になり 蝶になり 恋の折り紙 あなたの空へ

ちひろ

選評

・恋心を、折り紙にたくしてでも、恋人の元へ届けたいという、メルヘンチックな作品。(田中)

・「鳥」も「飛行機」も「蝶」も、すべて空を飛ぶものである。それを「恋の折り紙」にして、「あなたの空へ」飛ばすと言う。この歌は、まさに「恋」がキイ・ワード。「恋の折り紙」だから、「あなた」という限定された空に向かって、その恋の気持ちを飛ばすのである。「鳥」「飛行機」「蝶」の三つの言葉を選択したところに、この作者の才能を感じる。(水野)

・「鳥?飛行機??蝶???」と思わせてからの「折り紙」への展開がお見事。様々に形を変えて「あなた」へ向かう恋心です。(家藤)

不自由な 身体に生まれ その一歩が 踏み出せぬまま あなたを想う

祐介

選評

・気持ちの通った素直な一首。一歩踏み出すことで、世界が変わるかもしれませんよ。(田中)

・「踏み出せぬまま」というフレーズに、哀しみとためらいが表現されていて、読者の心を捉える。「不自由な身体に生まれ」たため、「その一歩」がどんな大変な一歩なのかが分かる。それでも、恋する気持ちは止められない。人を愛する気持ちは何よりも尊い。人生において、恋する気持ちを持てたことは、それだけで十分幸せでなことあると思う。(水野)

・心理のみならず物理的な隔たりでもある「その一歩」。悲しみがずしんと胸に落ちてくる一作でした。(家藤)

ベランダで 赤いワンピと 白いシャツ シンクロしながら サルサを踊る

ルッコラ

選評

・サルサは、情熱的なキューバのダンス。夏の夜のベランダでしょうか。カタカナを重ねながら、高揚していく二人の姿を想像します。(田中)

・「ベランダ」に乾した洗濯物が風に揺れて踊っているように見えたのでしょうか。シンクロはシンクロサイズの略で、画面と音声を正しく一致させること。サルサは、キューバ系ラテン音楽で、打楽器・管楽器を中心に構成され複雑なリズムを持つもの。「赤いワンピ」と「白いシャツ」という取り合わせが鮮やかです。そして、現代的で軽快なリズム感を持った作者の言葉はこびに、読者は夢中になるでしょう。(水野)

・生活の中でふっと目に付いた光景に「恋」を感じる瞬間。憧れか、はたまた服を着る主も同じように軽やかな恋を過ごしているのか。(家藤)

ポケットの恋人繋ぎ牡丹雪

芍薬

選評

・ポケットのなかで、お二人は手を握り占めているのですね。牡丹雪の舞う夕暮れでしょうか。舞台装置は整いましたね・・・・・・(田中)

・「牡丹雪」は、春の季語。淡雪とも言い、大きな雪片が牡丹の花びらのように降る雪のこと。冬の雪と違って溶けやすく、明るく軽快な感じです。みえないポケットの中の「恋人繋ぎ」は、淡雪も溶けてしまいそうな熱さです。牡丹雪のふる中を恋人二人が歩いている情景をしっかりと描いています。「牡丹雪」がとても美しいです。(水野)

・寒いから手は出したくない。でも手を繋いでたい。だからポケットの中に招いて、ぎゅっと手を握る。淡い春の牡丹雪が恋人達を近づけます。(家藤)

いつまでも後輩のまま冬すみれ

月の道

選評

・いつまでも先輩後輩の関係でなく、進展させたいのにという作品。冬すみれが効果的。(田中)

・片恋の感情がよく表現されています。可憐なすみれ、それも「冬すみれ」という季語が、恵まれない恋にぴったりです。いつまでたっても先輩後輩の間柄。読者をほろりとさせる作者の意図を感じます。(水野)

・伝えたいけど伝えられない想い。あるいは伝えたけど実らなかった恋なのか。「冬すみれ」がささやかな恋の象徴のように揺れます。(家藤)

カフェラテの泡のようにふんわりとあなたに恋して未来を描く

HANA

選評

・カフェラテの泡のような恋、ふんわり淡い初恋でしょうか。未来がひらけますように。(田中)

・「カフェラテ」は、カフェ・オ・レのイタリア語。カフェ・オ・レはフランス語で、牛乳入りのコーヒー。大ぶりのカップに、濃いコーヒーと温めた牛乳とをほぼ同じ量入れたもの。その泡で未来を描くというのである。泡のふんわり感が恋人との幸せな未来を表現していると思う。「ふんわりと」「描く」という言葉が、この歌を成功させている。(水野)

・恋を楽しむ手触りは「泡」のようにふんわりと繊細。「カフェラテ」から始まり「描く」で終わる言葉の展開もカフェでのひとときを思わせて心地良い。(家藤)

告白はチケットの裏クリスマス

彼方ひらく

選評

・クリスマスコンサートに行った帰りの喫茶店でしょうか。コンサートの興奮が残っているなかで、チケットの裏に書いたのですね「愛している」と。(田中)

・「告白はチケットの裏」とは、シャイですね。それがクリスマスの日・・・となると、オシャレです。映画でしょうか、音楽会(コンサート)でしょうか。彼女はいつ気づくのでしょうか。恥ずかしがり屋の胸のドキドキが、聞こえてきそうです。「クリスマス」の季語が、よく効いた一句です。(水野)

・クリスマスの賑わいへ出かける胸に偲ばせた、裏に告白を書いた「チケット」。渡すその瞬間まで高鳴り続ける鼓動が聞こえてくるようです。(家藤)

貴方へと転がる気持ち毛糸玉

洒落神戸

選評

・ころころと転がる毛糸玉のような、「貴方」への恋心。軽やかでチャーミングな歌。(田中)

・「毛糸玉」は、冬の季語。恋人へと向かう気持ちを「毛糸玉」に掛けて、「転がる」に表現されている。毛糸で編むのはセーターだろうか、マフラーか手袋だろうかと、読者の想像をふくらませるところがよい。ほっこりと暖かい気持ちになる句である。(水野)

・こんな形で「毛糸玉」という季語を活かすか、と驚いた一句。ごわっとしてたまに思わぬ方に転がったりもする。人間の心のふしぎな楽しさ。(家藤)

独り占め やっとできたと 思ったら 娘と言う名の ライバル現る

つちのこ

選評

・娘がはじめて見た男性は父親。父親に慕情をいだくのは当然かもしれませんね。「ライバル」と言いながら、喜んでいる作者像が見えるようです。(田中)

・結婚して子供が生まれるという平凡な幸せ。あたりまえの家族の中の出来事を、作者は「独り占めやっとできた」とか「娘という名のライバル」という言葉で特異な状況として表現しています。そしてユーモアもありながら、本音もちらりと見せます。息子だったら、立場が逆になっているのかも知れませんね。幸せすぎる作者です。(水野)

・こんな愛に満ちた一作を夫に捧げられる女性に敬服!娘さんの父大好き具合は母譲りなのだなあ、とそれもまた愉快。長い長いライバル争いは始まったばかりです。(家藤)

四国新聞社賞

はにかんで 少し小さい エプロンを 家庭科以来と 見せに来る君

ちひろ

カーナビに 恋と入力 走り出す

烏蘭

隣だと 恥ずかしいから 席替えは あなたの少し 後ろを選ぶ

shin

身長差二十センチの恋をしてキスを夢見て買うハイヒール

うみなり

あの星で待たせたままの恋がある

よしりん

香川短期大学賞

クリスマス あんなに待った 告白も もう鼓動しか 覚えてないよ

あやのまん

花言葉 知らない貴方に 薔薇の束

紅い風船

恋をした分だけ甘い 玉子焼き

りのんぱ

「この海にまた来たいね」と言ったのに 別の誰かが さらった約束

ちゃま

いつの間に 心はいつも あなた色

染まり隊

選考委員について

令和相聞歌の選考委員の先生を紹介させていただきます。(50音順 敬称略)

  • 家藤 正人(俳人)
  • 田中 美智子(歌人)
  • 水野 ひかる(詩人)
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