≪第7回(平成25年度)テーマ≫
恋
≪第7回(平成25年度)テーマ≫
恋
「あ」を打つと 「会いたい」「あなた」 「愛してる」 私の気持ち 先回りして
ルーク
懸想の思いを、今は文明の利器、スマホさえあれば一瞬にして首っ丈の胸中を相手に吐露出来る。この歌「あ」の畳語もさることながら、結句の「先回りして」に眷恋の思いを言いとめて妙。(木村)
ケータイは、もはや作者と一心同体。作者の気持ちを察知する強い味方ですね。(田中)
現代的視点により「あ」の語呂合わせが抜群に効いている。(水野)
キャンパスの並木道から続く道今なお君と歩くしあわせ
さびしんぼう
一入の思い出のあるキャンパスの並木道。その並木道に続く道を今も二人で歩く。純愛物語の1シーンを見ているようで読み手の心を放さない余韻嫋々の一首。(木村)
並木道と人生の道が、うまく一首に入っています。(田中)
初々しい二人の歩いている様子が目に浮かぶようです。(水野)
二人しか 解けぬ知恵の輪 つなぎし手
中村 公雄
二人でつないだこの手は、二人の知恵でしか解けないと知恵の輪に喩える愛の絶対。二人でつないだ手を知恵の輪と比喩した作句の才を讃えたい。(木村)
二人しか解けぬ知恵の輪、それは永遠の愛でしょうか。(田中)
この言葉しかないという五・七・五に脱帽(水野)
会いたくて どこでもドアが ほしい夜
羊男
恋慕極まればまさに恋河。今すぐにでも逢いたいと思う噴き出るような情念を「どこでもドアが欲しい夜」と隠喩した作句力は見事。(木村)
「会いたい」・・・・・それは恋する人の希求です。(田中)
「どこでもドア」の効果的な使い方が成功している。(水野)
坂道を あなたに向い ペダル漕ぐ 会い・たい・会い・たい 強いリズムで
ベンジャミン
この坂道はやはり上り坂。念力岩をも通さんかなの脚力をもち、上げ潮のごとく懸命にペダルを漕ぐ直向きさに圧倒される一首。(木村)
「会い・たい・会い・たい」の表記に、気迫がこもっています。(田中)
自転車を漕ぐ動きを言葉にしたところに共感(水野)
在りし日の父の背中を流すよに母は優しくお墓を洗う
黒田るみ子
肩肘張らない淡々とした措辞の中にも、連綿とつづく肉親への情愛が封じ込まれており、感銘の一首。(木村)
墓石を洗っている姿に、ありし日の「父と母」の仲睦まじい姿が重なります。(田中)
悲しい情景だけれど生前の父母の仲のよさが表現されている。(水野)
何歳(いくつ)でも 「乙女」になれる 時が来る
むこう
すがすがしくも優しく「女」の諦念みたいなものが読みとれて心を打つ一句。これほどの彼女にチャンスが来ない筈がない。(木村)
恋をすると、初々しい乙女の心になるのです。恋とはそういうもの。(田中)
「乙女」と言ったところに純情な気持ちが感じられます。(水野)
朝顔を 浴衣に咲かせ駆けて来た 傾く君を両手で受ける
ピコタン
「朝顔を浴衣に咲かせ」とは巧妙な把握であり、「傾く君」は傾き開く朝顔の花に通じる。機知に長けた大らかな一首。(木村)
ドラマの1シーンのように、イメージのたつ作品。(田中)
臨場感あふれる動作を情感豊かに歌いあげている。(水野)
もぎたての 林檎をかじる 瞬間の ためらいに似た 恋をしている
内気ガール
アダムとイブの物語がふと脳裏をよぎったが、恋うが故に昂る心搏までもが読み手に切々と伝わってくる一首であり、比喩が効を奏している。(木村)
ファーストキスを思わせる、ういういしさ。(田中)
新鮮な林檎をかじるときのためらいの心情が恋の一瞬をとらえて快い。(水野)
君としか重なり合わぬ貝になりたい
たかくらまさと
相手を独り占めにしたいという情感が貝合わせを比喩にして即伝わり、簡潔にして実感がある。(木村)
「貝合わせ」の貝は、ひとつの貝としか合わないもの。相性がいいのは、なにより幸せ。(田中)
平安時代の貝合わせを思い出しました。(水野)
決めたんだ 東京五輪 君と見る
田中克則
男の包み込むような思いと自信、この積極性には確とした二人の未来が窺えて軽快。(木村)
プロポーズの言葉でしょうか。簡潔で具体的ですね。(田中)
「決めたんだ」と断定するところに納得!それが恋です。(水野)
「好きだよ」が 言えずに三周 観覧車
左利きの金属
愛とは、他人の運命を傷つけることを畏れる心であるとは古人のことば。掲句も、相手の心を案じつつ切り出す言葉に煩悶するひと時をリアリティに叙して秀抜の一句。(木村)
観覧車が一番上に来た時がチャンス!言うタイミングがつかめなかったのですね。(田中)
ドラマの一場面のようです。(水野)
君が住むただそれだけで好きな町
石川 照夫
誰しもが同じ体験と、斯かる思いに馳せたことのある筈の句であり、いつまでも読み手の胸を打って止まない普遍性がある(木村)
好きな人の、すべてを好きになる。恋とはそういうものでしょう。(田中)
「ただそれだけで」の素直な気持ちがまっすぐ心に入ってきます。(水野)
主婦だって するんです恋 お米研ぐ
ひらめき子
恋は曲者とも言われ、潜在的本能でもあろう。この句「するんです」の措辞に、自分はそんなことはしない。それは他人事ですよと言っているように私には読み取れるが、さて。(木村)
「お米研ぐ」のリアリテイが、恋をきわだたせます。「足袋つぐやノラともならず教師妻」を思い出しました。(田中)
「お米研ぐ」の現実感で前の句がぴたりとおさまります。(水野)
紅葉狩り 私も染まった あなた色
豆助
恋人同士でも新婚夫婦でもよい。紅葉に染まった一山を仰ぎつつ、相手に身も心も添わせて徘徊する一時。中七下五の措辞に契りの深さが表白されている。(木村)
あなた色に染まりたい、それは幸せ色でしょう。(田中)
紅葉より「あなた色」に染まった作者の恋。(水野)
アラフォーにかけひきなんていらないの内角高め直球勝負
福島洋子
三十にして而立、四十にして惑わずと論語にもあるように、壮年期ともなれば何もかも大方知り尽くした年齢。恋をするにも正にかけひきなしの勝負をする。(木村)
アラフォーのあせりでしょうか。直球勝負が効いています。恋が成就しますように。(田中)
「かけひき」「内角高め直球」など野球に例えたところがとても面白い。(水野)
モノクロの 写真の彼は 時を止め
鈴木惠美
寄り添って 半音上がる 君の声
西澤英司
ボルドーの 熟成された 深い色 銀婚式の ワイングラスに
銀子
縁結び 出雲で祈り 君と会い 宇多津で育む 二人の愛
田中克則
海ホタルが導く恋の滑走路まっすぐ君に逢いに行きます
黒田るみ子
令和相聞歌の選考委員の先生を紹介させていただきます。(50音順 敬称略)