≪第1回(平成19年度)テーマ≫
恋
≪第1回(平成19年度)テーマ≫
恋
人ごみに紛れて繋いだ君の手を離すもんかと決めた夏の日
武田麻奈美
◇恋人を誰にも渡さないという直情を、夏の日のなかだけに強烈な想いが見えるように伝わる。 (今井誠人)
◇青春の夏の日の思い出がよく表現されています。(笹本正樹)
◇手を繋ぐことは、恋の第一歩。恋に言葉は不要。人ごみにまぎれて、そっと繋いだ手をにぎりしめ、昂揚している作者の姿が目にみえるようです。「離すもんか」と、強い口調で決意を述べた、愛唱性のある素晴らしい歌です。(田中美智子)
背の低いところが好き…とあなたは言った。 無理して履いてたハイヒール…あなたはぬがせてやわらかな地面に下ろした。
高岩 妙子
◇この人が好きですと外見ではなく、貴女が好きですという男に想われている。貴女は幸せ。(今井誠人)
◇こころ優しき彼であることがよくでています。(笹本正樹)
◇「背の低いところが好き・・・」は、飾らない、素のままが好きということでしょう。詩的広がりを持つ「やわらかな地面」が素敵です.(田中美智子)
恋をして 海より深き 青を見る
菅沼 名津季
◇その恋をする恋に夢中になるわからなくなる。そのとき、海を前に何もかも包含していると思える海、何処までも青さを湛えて広がる海に恋心を重ね合わせて深い。(今井誠人)
◇海より深い愛情を抱くことになりましたね。(笹本正樹)
◇恋をすると、風景まで違って見えたりします。人を想う気持ちを「海より深き」という一途さ。「青」は、海の藍色を、そして藍は愛につながるのでしょね。(田中美智子)
ねぇ 木枯らしが 何故吹くのか わかったよ。散り散りになった落ち葉たちを寄り添わせる為なのね。…逢いたい。
みくり
◇木枯のなかに不安を募らせながら、往来を落ち葉の離れたり集まったりするのを見て、一縷の望みを抱く切なさが、「逢いたい」は、切実な願望として伝わる。(今井誠人)
◇逢いたいで恋に火がつき枯葉が燃えますね。秀作です。(笹本正樹)
◇「・・・逢いたいの」の使い方が、実に巧みです。「逢いたい」を導きだすための言葉運びに、ウィットが効いています。風は、落ち葉を寄り添わせるために吹くという表現は、作者の見つけどころです。(田中美智子)
枕辺の着信灯をわが身よりあくがれいづる魂と見よかし
得丸公明
◇枕元の携帯電話の着信灯にすぐ反応する。ひたすらな恋する姿勢に、おかしくも切なくもあり。(今井誠人)
◇本歌取りで面白い短歌です。現代版定家ですね。(笹本正樹)
◇和泉式部の「もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る」を上手く取り込んだ、達者な歌です。着信灯の点滅から、和泉式部の「蛍」を連想したところが、この歌のポイント。(田中美智子)
赤い糸きりきり結び卒業す
出雲のお国
◇卒業して、毎日逢えなくなるという不安を、お互いの心に赤い糸を結ぶと恋が結ばれるという伝説を信じているのは、素晴らしい。(今井誠人)
◇高校卒業でしょうか。「きりきり」の表現が純愛らしさを示し、秀作です。(笹本正樹)
◇赤い糸で結ばれている二人、というだけではなく一歩踏み出して、自己主張しています。自分の意思で「きりきり結ぶ」のです。積極的なこの表現に、現代の若者像が投影されているようです。(田中美智子)
おかしいなぁ君が居ないとつまんない
飛田鈴花
◇恋心をかりたてるものは、この人がいてこそと、一寸した角度を変え恋人と居る幸せ。(今井誠人)
◇恋の対象者の不在は耐えられませんね。(笹本正樹)
◇「君」がいるときには、気がつかなかった「君」の存在を、素直につぶやくように述べています。「つまんない」は、恋の芽生えの確認でしょうか。(田中美智子)
メール見て声聴きたくて電話する
結木静
◇携帯電話の字を追いながら、相手の顔が相手と同席している想いに、早く一緒に居たい。恋のすさまじさが見える。(今井誠人)
◇メールをみる。電話をする。実際に会って話す。大切な順序ですね。(笹本正樹)
◇軽快なタッチで率直にうたい、共感を呼ぶ作品です。声をきけば、逢いたくなる・・・際限が無いのが、恋というもの。(田中美智子)
思い出の町宇多津の町青い海辺のイベントに二人で行けば嬉しいねきらきら光るガラス館貴男のお國はどこでしょうオルゴールの音も聞こえるよ二人で鳴らす愛の鐘
近井あさ
◇字をたどるほどに童話の世界に居るよう。宇多津という地名までガラス館のなかに華ぎオルゴールがよろこびをかきたてる.(今井誠人)
◇瀬戸大橋を渡って日本一の青春の町に来た喜びが溢れています。(笹本正樹)
◇青い海と、ガラス館のある町・宇多津町。恋人の聖地・宇多津町を訪れた作者の耳には、二人で鳴らす愛の鐘が聴こえているのでしょう。ぜひ、二人で鐘を鳴らしに来て下さい。(田中美智子)
今日 新しいグラスを2つ買いました。
大友富月
◇迷うことなく、二人の幸せは頂点に達したよう。いつ迄も幸せに。(今井誠人)
◇すてきな恋のスタート。みずみずしい恋の感覚です。(笹本正樹)
◇この作品は、一緒にワインを飲みましょうというメッセージです。グラスを掲げ、次に展開するさまざまな場面を想像させる、ふくらみのある作。(田中美智子)
《パパと結婚する!》懐かしい?よく言ってたよね。ねぇ父さん?今私は、純粋な心で、人を愛して居ます。その人はね…キラキラした瞳を持つ、すごくお父さんに似ている人なんだ。
愛娘
◇生まれてから父を信じ育まれてきた。その父に似た眼を持つ彼もまた、純粋な瞳。そのよろこびは、かけがえがない。(今井誠人)
◇ファザコンと言われるかも知れませんが、よい家庭の証拠ですね。(笹本正樹)
◇女の子がはじめて異性を意識するのは、身近にいる父親です。父親みたいな人を好きになるのは、一番頼もしく、安心できるからでしょう。父と娘の、幸せな家庭生活がすけてみえるようです。(田中美智子)
君の嘘 ひとつ許して恋兆(きざ)す
吉田順子
◇嘘一つ許すことは、これからは一心同体になれる。今からの人生の荒波を生き抜こう。(今井誠人)
◇彼の嘘を許すこと、母性愛の始まりですね。(笹本正樹)
◇嘘は、恋のテクニック。美しい嘘、嘘の効用という言葉もあります。嘘と知りながら許すという、鷹揚に構えた大人の歌。(田中美智子)
ひさしぶりに会える、あなたと待ち合わせ。携帯電話がうれしそうに身震いする。「もうすぐ着くよ」あなたからのメール。この瞬間が私の人生の最高に幸せの時間です。
はじめ
◇待ちに待った想いが、刻々と現実に近づく歓びをストレートに伝えている。(今井誠人)
◇ケータイが身ぶるいする。私も身ぶるいしている感じが良いですね。(笹本正樹)
◇逢う喜びを、携帯電話の振動であらわした、初々しい作品です。「うれしそうに身震いする」のは、作者の高鳴る心でもあるのです。(田中美智子)
おばあは寒くないか?余命2カ月を宣告された祖父の口から出たのは病弱な祖母を気遣う言葉。無口な祖父の最愛の人へのメッセージは60年分の深い深い愛情でいっぱい。
マカダミア
◇祖父祖母の愛情の片鱗を見せられ、本当の愛情に感動できた幸せを見る。(今井誠人)
◇無口な祖父、短かい言葉だから効果があるのですね。(笹本正樹)
◇祖母をいたわる祖父のやさしさ。その二人を見守っている作者のやさしさ。「おばあは寒くないか?」に、老いて病む二人の哀しみが惻惻と伝わってきます。(田中美智子)
初デート 離れて歩く 我の手を 不意に掴んで 赤信号走る
青春ランナー
◇初めてのデータの気持ちを払拭する。交差点で赤信号に彼から手を、掴まれた。有無を言わせぬ愛情に歓ひひとしを。(今井誠人)
◇これからふたりで人生の危機をのり越える、その第一歩ですね。(笹本正樹)
◇初デートで、初めて握った彼女の手。手を掴むことも、ジェイ・ウォークすることも、とても勇気がいったことでしょう。(田中美智子)
あなたのために作ったフォルダーが、今でも残っています。あなたから届いた何気ない小さな幸せを感じたメールを、消せずにいます。まだ待っていてもいいですか?
岡川佳太
◇思い出のフォルダー。まだ持っていてもいいですか。切なすぎます。(今井誠人)
◇恋の哀愁といったものを感じさせるよい作品です。(笹本正樹)
◇「まだ待っていてもいいですか?」こんなに控えめで可愛く言われたら、誰だってメールを返したくなります。何気ない言葉に幸せを感じるのは、恋をしているからでしょう。(田中美智子)
君と出逢ってから一人寂しい夜はケータイを抱きしめて ベッドにもぐるのもうすぐ聴こえる 君の声トゥルル トゥルル――『もしもし』
明日香
携帯を握りしめて眠る夜は、いつもあなたの夢をみます。夢の中で私を抱くの。あなたの胸は温かで優しく私を包んでくれる。夢の中で囁いて。「愛してる」と囁いて。
寺林佳子
恋愛が上手になってまだ未婚
かみーる
嗚呼これ以上我慢できない自分にブレーキが効かない私をこれ程までにスピード違反させるあなた逮捕してもいいですか
こころ
終電に駆け込む日々を繰り返す それならいっそ一緒になろう
大作道子
令和相聞歌の選考委員の先生を紹介させていただきます。(50音順 敬称略)